【ネタバレあり】スパイダーマン：ノー・ウェイ・ホーム　レビュー

大人の不在と民衆の冷たさ

まず最初に思ったのは、「大人たち、冷たくない？」ですね。

『ファー・フロム～』でも感じましたが、もう少しアベンジャーズ側のサポートがあって然るべきだと思うのですが、そのような描写があまり見られず、「ローディとかブルースとか何してんの？大人がもうちょっとピーターをサポートしてあげてよ…」と思わずにはいられないくらいスパイダーマンは孤軍奮闘感がありました。

まぁ今回そこをサポートするのがまさにネタバレのネタである、大人の先輩スパイダーマンたちなんですがね。

(ヒーロー名がタイトルになっているMCU作品が孤軍奮闘になる傾向が強いのは前提としつつ)

あと、ニューヨークの街の人々の描かれ方が冷たさ寄りというか、「おれはスパイダーマンのファンだぜ！」みたいな温かみのある民衆がいなくて寂しいなと思いました。MIT副学長を始めとした救出劇での一般市民との交流もあるのですが、映画前半で終わりですし。JJJが苛烈にスパイダーマンを批判するのを観客が受け入れられるのは、ベースが民衆はスパイダーマンの味方というのがあってこそなんじゃないかなと思います。映画製作側の民衆(≒観客)の捉え方も反映されてるのかなとも思いました。

スーパーパワーを持つ人がヒーローであってもヴィランであっても一般市民にとっては、ある種の脅威と感じてしまうというのは、色々な作品で描かれているトピックだと思いますが、本編最後にでも、名も無き街の人々がスパイダーマンを受け入れるようなシーンはあってもいいのにな、と思います。

先輩スパイダーマンたち

いやー、アンドリューが出てきたときは予想はしてたものの信じられなくて、頭の処理が追いつけなくなりました！！スクリーン上で繰り広げられているこの光景は、本当のことなのかと。

トビーも年齢を重ねてはいるものの、おっとりしたピーターそのもので俳優さんてすごいですね。

いいなと思ったはVFXで彼ら若返らせたりしなかったことです(主にトビー)。先輩スパイダーマンたちは映画の中でわたしたち観客と同じ“今”を生きていて、彼らのこれまでの来し方をセリフや仕草でさりげなく察することが出来たのが、大変だったんねぇ…という親戚みを発現し嬉しくなりました。

ヴィランたち、先輩スパイダーマンたち、そして本作のピーターにも、“セカンドチャンス”・“やり直し” が今回作中でポイントになっていますが、やっぱりアメスパのアンドリューピーターが救済された場面は感動しました。

人はときに取り返しのつかない過ちをしてしまうこともあるけれど、誰かを助けることで自分もまた救われるんだというメッセージはヒーロー映画の大きなテーマですよね。

今回が特別なのは重々承知してますが、先輩2人の活躍を別の機会でも見てみたいななんて思いました。

それぞれのバース

治療後のヴィランが戻ったユニバースは、元のバースと同じと言えるんですかね…？

In the grand calculus of the Multiverse, their sacrifice means infinitely more than their lives.

P.83 – SERENITY NOW(※ノー・ウェイ・ホームのフェイクタイトル) – by Chris McKenna & Erik Sommers

ストレンジのセリフ引用ですが、ヴィランたちの死は回避できない“fate(宿命)”なのだとしたうえで、「壮大なマルチバースの営みの中では、彼らの犠牲はその命よりもはるかに意味がある」(※意訳)というようなことを言っています。

ストレンジがグランドキャニオンから脱出、ヴィランたちへの治療計画の実行を知った後でも、マルチバースへの影響に関する発言は無かったように思います。「今すぐ(計画を)止めるんだ」みたいなことは言っていますが。

(タイムストーンを所持していたときのストレンジ先生は結構時間をいじっていたから、ピーターに説教しているときも「いや、どの口が？」と思ったのは内緒です)

ヴィランたちは自身の死の直前から呼び出されているので、元の世界に戻っても死ぬ運命＆歴史改変は起こらないんじゃないかなと個人的には考えています。また先輩スパイダーマンについても時間軸が“今”なので、そちらの面でも過去が変わることは無いように思います。

ただ、もし治療後のヴィランたちが死を回避できたり、治療により人格が変わったことを端緒にそれぞれのバースに変化が起こったらどうなるのか、というのは非常に気になっています。このあたりは、ストレンジの2作目『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』で描かれているかもしれません。

呪文の範囲

ストレンジの呪文の効果範囲ってどこまでなのでしょうか…？

The entire world’s about to forget that Peter Parker is Spider-Man, including me.

P.40 – SERENITY NOW(※ノー・ウェイ・ホームのフェイクタイトル) – by Chris McKenna & Erik Sommers

こちらもストレンジのセリフ引用なのですが、これは最初の呪文です。そして最後の呪文は、脚本では「最初に呪文を唱えたときと同じように魔法が渦巻いている」という描写があるだけでどのような言い回しの呪文だったのかまでは分からないようになっています。

重要なのは、 “The entire world(全世界の)” という部分です。この言葉からは、地球以外の星や宇宙も含めたこの本作バース全体をことを指しているような印象を受けます。であれば、ソーやニック・フューリーなど宇宙にいるアベンジャーズのメンバーもピーターのことを忘れている可能性は高いんじゃないかなぁと思います。特に “entire” という単語からは、「漏らさず全て」のような意味もあるので。

しかし “world” は、ちょっと強引ですが「この地球上の」と言えなくもないので、絶妙な言い回しですよね。

あと、ストレンジが呪文に自分を含むことをわざわざ言うのもなんだか作為的な感じもしています。ストレンジはドクターでもあるので、自分の治療措置は記録しているのでは(ピーターを覚えていてくれ！という個人的希望)とも思っています。ある程度対象外の人物を指定できていたので。あるいは、ヴェノムやメタ発言ができるデッドプールあたりにピーターとのからみを期待したいです。

スパイダーマンという存在は連続していることが今のところの希望ですね。

ソニーのスパイダーマンへの回帰

前作のエンドクレジットで、ビルの谷間をウェブスイングするスパイダーマンを見て「あぁソニーのスパイダーマンとして戻ってきたなぁ」との思いがあったのですが、本作でより強く感じました。最終決戦の地であるキャップの盾を持つ自由の女神像は、まさにマーベルとソニー(コロンビア・ピクチャーズ)のコラボを象徴してますが、自由の女神から盾は外されてしまいました。わたしはこれにエイミー・パスカル氏(本作の映画プロデューサー)の「スパイダーマン単独のバースをこっちはこっちでやったるで！！」という強いメッセージを受信しました（笑）。ヴェノムも出てますしね。

実写で『スパイダーマン：スパイダーバース』を作るとこんな感じなのかなと思ったのですが、マルチバースの表現そのものについてはアニメーションに軍配が上がるなと感じました。個人的には、ストーリーについても『～スパイダーバース』の方がきっちり立身譚としてとまとまっていて好きです。

スパイダーマンとヴェノムやモービウスの競演も見たいですし、虎の子のスパイダーマンをマーベル(ディズニー)が縁切りするのも考えられないですし(というかアベンジャーズに残留してほしい)、本作の大ヒットを受けてMCUとSSUが今後どう展開されるのか、とても楽しみです。