【ネタバレあり】『トップガン　マーヴェリック』レビュー

ハードル爆上げのミッション

本作で課されているミッション…不可能過ぎてまさに『ミッション：インポッシブル』じゃん！と思ってしまいました。実際、マーヴェリックは成功させるのですが。練習で自らやってみせ、有無を言わさず「できる」を見せつける強気スタイルがトムっぽくもありまたアメリカ的だななんて思いました。

ただ、これくらいじゃないと練習中はもちろんミッション本番も緊迫感が無いのでこのハードルの高さで正解だったと思います。

鑑賞中、ミッションの練習から本番に入るまで若干駆け足感があるなと思っていたのですが、マーヴェリックとルースターの脱出劇の展開を観て、これを入れたかったから少し早く本番突入したんだなと納得しました。

マーヴェリックとアイスマン

前作『トップガン』ではトムのマーヴェリックとヴァル・キルマー演じるアイスマンの衝突がメインの一つでしたが、時を経た本作ではアイスマンが海軍トップを務めたのち引退し大病を患っている…、かたやマーヴェリックは現場主義にこだわり出世もせず現役パイロットを続けている…。

前作でマーベリックの親友でもあり相棒のグースが不慮の事故で亡くなったのは訓練中、アイスマンの戦闘機が発生させた予期せぬジェット気流に巻き込まれたもの(と私は思ってます)です。マーヴェリックに責任は無く、もちろんハングマンにも無いのですが、その後のマーヴェリックに重くのしかかってる事故です。個人的にアイスマンもずっと引っ掛かっていたのではと思います。だから最後にマーヴェリックの心の重しを取る仕事をしたのではと思います。

誰よりもマーヴェリックの能力と人間性を見てきたアイスマン以外は出来ないことですね…。

マーヴェリックとルースター、家族になる

マーヴェリックは前作にて既に両親が他界しており、さらに親友グースも失って孤独な状況です(マーヴェリック “maverick” ：型破りの、という意味だけでなく一匹狼の意も)。それは36年経っても変わりません…。

友と呼べる仲間や恋人はいますが家族はいない…ルースターを息子同然、大切に思っているがゆえに危険が付きまとう海軍学校への願書を破り捨てるという行動により怒りを買うことになる…。

ルースターにとっては、海軍に志願するのは父とマーヴェリック双方への憧れもあったのだと思います。しかし、願書破棄により言外に「海軍兵足りえない(≒信頼されていない)」と受け取ってしまうのは無理もないことかと思います。

本作では「考えるな、行動しろ！(Don’t think, just do!)」という言葉がよく出てきます。これはパイロットが考えている合間に追撃されるから直感レベルで動け！という意だと思いますが、その裏側には、自分の判断を疑うな、自信を持てという意味も含まれていると思います。そしてルースターがこの言葉を素直に受け止めることもできません。

考えすぎてスピードが出せないルースターが本当に殻を破るのは、ミッション途中ではなく、マーヴェリック救助に舵を切ったことですね！！課されたスピードを出すのも吹っ切れたことを意味しているとは思いますが、任務上の犠牲に目を瞑るというある種軍人として当然の事から、自分の意志でマーヴェリックを助けに行くのはまさに「考えるな、行動しろ」を実行した結果だと思います。自分の殻とマーヴェリックからの殻を破ったルースターは、真に一人の大人としてマーヴェリックと接することが可能になり、結果二人協力して死地を脱することになります。

本作ラストは、マーヴェリックとルースター、ペニーと娘アメリア4人の場面です。マーヴェリックとルースターは親子となり、ペニーとアメリアを加えて家族にになった…マーヴェリックが家族を得たことはこの映画のラストを飾るにふさわしい描写だと思います！！！！

「だが今日じゃない(but, not today)」映画

マーヴェリックが試作機パイロットをしているのは、AIパイロットには出来ないことを証明する(と仲間の)ためです。本作のプロデューサーはジェリー・ブラッカイマーですが、トム・クルーズも製作面で深くコミットしてCGで出来ないことをしよう！という意気込みを映像から端々に感じさせるものになっています。

マーヴェリックがアイスマンに言う「(僕はパイロットだ。)それは職業じゃない、僕そのものなんだ(It’s not what I am. It’ who I am.)」は、トム・クルーズ本人にも大いに重なるものがあります。近年のアクションへのこだわり、自身がスタントすること…年を重ねてなお高みを目指す姿勢と自分の経験を若い世代に伝えるのは、本作でマーヴェリックのやっていることそのものですよね。

パイロットにしろ役者にしろ、いずれ生身の人間が使われなくなるなるかもしれない…「だが今日じゃない！」と高らかに宣言し、実際にやってみせる。それが『トップガン　マーヴェリック』という作品です。