こんにちは、sallyです。
今回は、『NOPE / ノープ』についてレビューしたいと思います!
あらすじ
映画やドラマなどの撮影に使う馬の飼育をしているヘイウッド牧場。牧場主である父を空からの落下物で亡くしたOJは、牧場をなんとか切り盛りしていたが経営は厳しい。父の突然の死を上手く消化できずにいるOJとは対照的に、妹エメラルド(エム)は、エンターテイナーとしての自分の売り込みに夢中で牧場経営にあまり真剣に取り組んでくれない。
ある夜、厩舎を出た馬を連れ戻そうとしたOJが巨大な竜巻とともに “何か” が空を横切るのを目撃。その話を聞いたエムは、その “何か” をカメラに収め大金を得ようとOJに持ち掛ける。
概要
- 原題:NOPE
- 監督:ジョーダン・ピール
- 時間:131分
- 出演:ダニエル・カルーヤ、キキ・パーマー、ブランドン・ペレア など
本作は、ジョーダン・ピール監督作品の第3弾です。IMAXカメラで撮影されたシーンが多用されており迫力満点の映像になっています。様々なジャンル要素が入っている映画です(もちろんホラー要素もあります)が、兄OJと妹エムの絆には心が熱くなるのではと思います。
物語の構造が章立てになっており、また寓意に溢れているので鑑賞後にあーだこーだと考察したくなる内容です。
劇場もしくは大画面での鑑賞が映像のダイナミックスさを感じられるので、おすすめです!!!!!
IMAXの映画館で鑑賞しましたが、さすがの迫力でした!(そしてちょっと怖かった…)
感想
前半はネタバレ無しで、後半はネタバレありです。
ネタバレ無し
この映画は、ネタバレ無しで感想を語るのが非常に難しいのですが……
映像的 “大スペクタクル” とともに、見る/見られる という構図が様々な形で提示されます。また、本作は逆襲の映画でもあると思うのですが、映画全体通して「観客の予想通りにはしないぞ」という製作陣の意思を感じました。
ストーリー展開自体ももちろんですが、メインの登場人物であるOJとエムの性格も観客が無意識に期待する設定にはなっていないのではないかな、と思います。OJは無口で内向的(言い換えると何を考えているのか掴みにくいキャラ、あるいは無骨なカウボーイ)、エムは口達者で明るいですが少々自分勝手であり、考えなしに行動してしまいます。
私個人は、この二人の兄妹に映画後半まで感情移入ができず、少々の苛立ちを感じながら鑑賞していました(しかし意図した性格設定だとは思います)。言い換えれば私たちと変わらない等身大の登場人物とも言えるかもしれません。ただ後半は、そんな兄妹が力を合わせて立ち向かう…お互いを思う姿に熱くなりました。
「うわぁ…早く終わってくれ…」と思うシーンや逆に「頑張れ!」と応援したくなるシーンなど、感情起伏のジェットコースターが激しく、様々なジャンルがないまぜになった映画です!!!!!!!
日本アニメの影響を感じるカットもあり見ていて楽しいです!
ネタバレあり
アコーディオンで隠しているので、見たい方は広げてください。
ネタバレ感想
逆襲の映画
ネタバレ無しの方でサラッと触れましたが、本作は登場人物たちが失ったものを取り戻す逆襲の映画といえると思います。OJ、エム、ジュープ(ジュピター)、エンジェル、ホルスト……。
●OJ…父親の死因、自分たちや馬たちを脅かさす存在への抵抗
●エム…エンタメ業界での成功、自分もやればできること
●ジュープ…名声、途絶えた子役キャリアに代わるもの(ジュピター・パークだけでは得られなかった)
●エンジェル…意義のある活躍(正確には失ったものではないですが)
●ホルスト…未知なるものの撮影(とその熱意)、生きている実感
ジュープは、ジュピター・パークという施設を運営し経営拡大を目論めるほどの成功をしていますが、子役時代の衝撃的なゴーディ事件(※後述)に未だに囚われています。
エンジェルは、大型量販店のスタッフを退屈そうに勤務しています。やりがいを実感できていないというか。
ホルストは、ベテランカメラマンで仕事にプライド持ってはいるけど、熱意までは感じられないかんじですね。白黒の動物映像を観ている様といい、常飲している薬といい死期が近いのを匂わせている印象を受けました。
さらに登場人物の個人の逆襲もありますが、社会構造に対する逆襲…つまりマイノリティに属する人たちによる奪還としても描かれています。
謎の地球外生命体(通称Gジャン)の正体をカメラに収めるのは、史上初の映画といわれる『動く馬』の黒人騎手の子孫であるエム(OJは囮として活躍)、Gジャンを攻撃するのはジュピター・パークのマスコットのバルーン(=アジア人)なので、社会でもエンタメ業界でも名前を奪われてきた者たちによる勝利、映画のメインストリームの奪還ともいえると思います。
ゴーディとは…
本篇冒頭と作中でも差し込まれる、ゴーディ事件…TVドラマ『ゴーディ 家に帰る』撮影中にゴーディ役のチンパンジーが共演者の人間に襲い掛かってしまった出来事ですが、テーブルクロスと不気味に直立する靴によって直接ゴーディの目を見ずに済んだ子役時代のジュープは無傷で生還しますが、今なおこの事件に囚われたままです。この事件をどう考えているかは彼の内面が語られていません。私は、この事件によりジュープがGジャンともコミュニケートできると驕った一因にはなっているとは思いますが、Gジャンに対してはもっとビジネスライクな印象を受けました。
チンパンジーのゴーディですが、誕生日パーティーの撮影中に暴れだします。飾りの風船が割れるたび興奮がぶり返して、このシーンがとても長く感じました。テーブルの下のジュープ目線から見た、興奮が落ち着いてきたゴーディは疲れているように見えました(特に精神的に)。疲れたおっさんが「パーティーなんてやってられるかよ」と言って三角帽子を脱ぎ捨てている感じです…。
パンフレットでは、ゴーディは有色人種、特にアジア系のメタファーだと記されていましたが、私は黒人系のメタファーも大いに含まれていると思いました。欧米では、エンタメにおけるアジア系はそもそもあまり認知されていないと思うので。ステレオタイプの役割を押しつけられ見世物にされるゴーディ…。先述で “疲れているように見える” と書きましたが、果たして実態もそうなのか?とちょっと思ったりもしています。
積もり積もったストレスが爆発してしまったというのが素直な観方かなと思いますが、単に風船にびっくりしただけ、強めに遊んでいただけ……なども考えられますので(かなり強引ですが!)、人間が理解できる範囲に理由を押込める皮肉かもな、とも思います。
女性的メカニズムの雰囲気
Gジャンは布のようなひらひらした楕円形の中心に黒い穴があり、最初は馬、次は人間を吸い込んでいきます。そして、無機物などの不要なものを同じ穴から大量の血ともに吐き出します。変身後はクラゲのような、ユリの花のような形になりますがビジュアル的に女性を思わせるデザインだなと思います。
Gジャンの写真を撮るのが女性であるエムというのも、あるいはOJやホルスト、エンジェルではなく女性であるエムでなければGジャンの正体は捉えることはできない、という意味なのかなとも思います。
見る / 見られる の構図
作中、馬⇔人間、ゴーディ(チンパンジー)⇔人間、Gジャン⇔人間(撮影)、そして兄(OJ)⇔妹(エム)という見る/見られるの関係性がたくさん出てきます。対動物(Gジャン含む)では、“見ること” が動物を刺激し攻撃されるのですが、兄妹間では、“見守っている” という信頼の構図になるというのが面白いですし、心が熱くなります。
また、本作は映像・映画をめぐるお話でもあり、映像の背景にこの映画を撮ったカメラマン(ホイテ・ヴァン・ホイテマ氏)と監督の視線を感じ、さらに、その映画を観ている私たち(観客)…というメタ視点も自然と認識させられるのがうまいなと思いました。
Gジャン撮影を目論むホルストは、電気消失の対策として手回しカメラを使用しますが、そのカメラにもIMAXのロゴが付いています。そのロゴを見て、馬が走る白黒の連続写真から映画の歴史が始まり、CGやIMAXに至る映像技術の発展へのリスペクトにも感じました。